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父親がガンで亡くなった。享年60。母親は僕が幼い頃にこの世を去っているので、これで僕は両親を亡くしたことになる。
父親の最期を看取ったのは僕だった。僕には3つ年下の妹、つまり父には娘がいるが、彼女は見舞いの一つにも来なかった。むべなるかな、父親と妹は数10年前に縁が切れていたのである。10年以上前に家出同然に妹は実家を出て行った。実は僕はその理由を知らない。ただ、妻を亡くした父がその性対象を妹に向けていたことは何となく察しがついていた。事が事だけに父親にも妹にも真相を聞いたことはなかったが、幸いにも妹は僕との関係までは切っておらず、家出後も連絡は取れ合う状態だった。
妹は家を出た後、隣県で仕事を見つけて自活していた。もう30になるが未だに独身だ。時々、父親から「〇〇は今どうしている?」と聞かれたことはあったが、不穏な空気を肌で感じていた僕がそれに答えることはなかった。
そんな父親も亡くなった。僕の知らせに妹は別段ショックを受けている様子はなく、淡々と「あ、そう?」と答えただけだった。
「私ね、お父さんからセンズリ鑑賞させられていたのよ」
遺産のことで妹と話し合いを持った時、初めて真相を告白された。
成長して妹に母の面影を感じるようになった父親だが、まさか娘に間違いを犯すわけにはいかない。父親がたどり着いた気持ちへの決着のつけ方がセンズリ鑑賞だったのだ。
「お父さん、私を見て泣きながらセンズリしてるの。お母さんを思い出しているんだなって思うと私は何も逆らえなかった」
父親は理性を守り、妹に手をかけることは一切しなかったそうだ。だが、このままではお父さんは一生お母さんを忘れられずに過ごすことになる、と察した妹は父親に踏ん切りをつけさせるために家を出た、と言うのが事の真相だった。2人は険悪だったわけではない。妹が家を出たのも父親に対する愛情だったのだ。
「今頃、お父さんはお母さんに会って久しぶりにエッチしてるんだろうね」
母親が亡くなった後、他の女性には一切目もくれなかった父を思い、僕と妹は仏前に手を合わせた。
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